心に吹く風タイトル
監督脚本ユン・ソクホ/眞島秀和/真田麻垂美
イントロダクション
松竹ブロードキャスティング
「力ある監督が撮りたい映画を自由に撮る」「新しい俳優を発掘する」をテーマに、2013年に始動した松竹ブロードキャスティングのオリジナル映画プロジェクト。これまで沖田修一監督の『滝を見にいく』(14)、橋口亮輔監督の『恋人たち』(15)、坂下雄一郎監督の『東京ウィンドオーケストラ』(17)という作品を生み出し、大きな成果を上げてきたプロジェクトの第4弾となる『心に吹く風』は、韓国で数々の名作ドラマを手がけてきたユン・ソクホ監督、初めての劇場用映画となる。
ドラマ「冬のソナタ」ユン・ソクホ監督
日本の韓流ブームの火つけ役となった「冬のソナタ」(02)をはじめ、「秋の童話」(00)、「ラブレイン」(12)など、ピュアでロマンティックな感性を生かしたテレビドラマを手がけてきた韓国の巨匠ユン・ソクホ監督。92年に演出家としてデビューして以来、ドラマ一筋でキャリアを重ねてきたユン・ソクホ監督が「死ぬまでにぜひ、やってみたかった」という長編映画に挑んだのが本作だ。「風の物語を撮りたい」という思いから出発し、頭に浮かんだイメージを忠実に映像化するため、脚本も自ら執筆。これまでの作品でも繰り返し取り上げてきた“初恋”をテーマに、高校時代に愛し合い、23年ぶりに再会した男女が過ごす奇跡のような数日間を描き出している。日本の俳優、スタッフとのコラボレーションにも注目したい。なお、音楽は「冬のソナタ」以来のユン・ソクホ監督の盟友で、『オールド・ボーイ』(02)や『建築学概論』(12)など多くの映画でも知られるイ・ジスが担当している。
風と光に彩られた大人の純愛
友人の住む北海道を訪れ、作品作りのための撮影を続けていたビデオアーティストのリョウスケ。乗っていた車が故障し、電話を借りるために立ち寄った家で高校時代の恋人で、今でも心に思い続けていた春香と偶然再会する。彼女が結婚していることに気づきつつも、撮影へと連れ出すリョウスケ。夫と娘、姑との変わらぬ日常を過ごしていた春香はリョウスケの態度に戸惑いつつも、少しずつ忘れていた感情を思い出していく。「大人の童話を作りたかった」という監督の言葉通り、時を経ても “初恋”の感情を失っていないリョウスケと、彼との時間や、カメラを通して見た光や風の美しさによって表情を変えていく春香の様子が繊細に捉えられている。言葉を排し、イメージと音楽で回想される高校時代のシーンも青春の爽やかさを伝える。 高校卒業以来、愛し続けてきた女性と再び出会い、1秒でも長く一緒にいようと誘う主人公リョウスケを演じているのは『愚行録』(17)などの映画のほか、ドラマでも活躍中の眞島秀和。また、突然現れたリョウスケに心かき乱される主婦・春香役を、『月とキャベツ』(96)等数々の映画でヒロインを務めた真田麻垂美が16年ぶりにスクリーンに復帰、しっとりと演じている。
北海道の雄大な風景
「自然の偶然性をカメラに収めたい」というユン・ソクホ監督が物語の舞台に選んだのは北海道。現地に滞在しながら、脚本の構想を練ったという。2016年2月に網走にてリョウスケがオーロラを撮影する冬のスコットランドのシーンを撮影した後、6月に入り、富良野近郊や美瑛で本格的な撮影がスタート。リョウスケがピアノを弾く中富良野の風景画館、春香がボランティアをする富良野自然塾・風のガーデン、美瑛にある拓真館の白樺並木、美瑛町の白金に位置する青い池などがロケ地に選ばれた。監督のイメージ通りの風、光、雨を捉えるため、約1ヶ月にわたって俳優、スタッフがロケ地近くに宿泊し、天候に合わせて撮影が行われた。
ストーリー
友人の住む北海道・富良野の郊外を訪れ、作品作りのための撮影を続けていたビデオアーティストのリョウスケ。乗っていた車が故障し、電話を借りるために立ち寄った家でドアを開けたのは、高校時代の恋人・春香だった。

23年ぶりに再会した彼女に家族がいることを知りつつも、撮影へと連れ出すリョウスケ。彼のお気に入りの小屋の中で雨宿りをしながら話すうちに高校時代の気持ちを思い出していく春香。静かな時間の中でふたりの距離は縮まっていく。

翌々日には北海道を離れなければならないリョウスケは、もう1日だけ一緒に過ごしたいと春香に頼むが……。
ストーリーフォト
ディレクター
ユン・ソクホ監督
1957年6月4日生まれ。韓国・ソウル特別市出身。85年にテレビ局KBSに入社し、92年の「明日は愛」で連続ドラマの演出家としてデビュー。自然を細やかにとらえる映像美と卓越した色彩感覚を発揮しながら数々のドラマを手がける。00年の「秋の童話」は、韓国だけでなく中華圏でも大ヒットし、“韓流”の火付け役に。さらに続く「冬のソナタ」が04年、日本でも地上波で放送され、空前のブームを巻き起こす。主演のペ・ヨンジュンをはじめとする俳優たちが爆発的な人気を獲得すると同時にユン・ソクホ監督も韓流の立役者として広く知られるようになり、大統領表彰をはじめ、数々の賞に輝いた。「夏の香り」 (03)、「春のワルツ」(06)と続いた四季シリーズを完結させた後は、人気俳優チャン・グンソクとガールズグループ少女時代のユナを主人公に起用した「ラブレイン」(12)を発表している。01年にKBSを離れ、04年に自身の制作会社YOON’SCOLORを設立。06年には『冬のソナタ ザ・ミュージカルWinter S onata,TheMusical』の総合演出を担当した。
―初めての映画を作り終えての感想をお聞かせください。
映画作りは「死ぬまでに絶対やりたいこと」のうちのひとつだったので、うれしいです。セリフから何からすべて自分自身で作っていかなければならなかったので、何かをするたびに「なぜ?」と自分を振り返り、自分の中の哲学といいますか、自分自身を心底から見つめ直す過程となりました。終わってみて、「成長した」「成熟したな」と感じられた経験でした。
―これまで演出してきたドラマと違い、今回は脚本もご自分で書かれました。その理由は?
実は、最初、ドラマ「夏の香り」などを書いた、とても親しい脚本家に書いてほしいと相談しました。そして、主人公がビデオアーティストであるとか、風についての物語であるとか、自分が「描きたいもの」についてすべて話しました。するとその人から「監督の頭の中に、映像のイメージが膨らんでいるので自分には書けない。ご自分で書いた方がいいと思いますよ」と言われました。今までやったことのないことでしたが、私の中ではストーリーよりも前にイメージが先にあり、それを生かして書いてみようかなと思いました。もともと北海道で撮影したいという気持ちがあったので、ロケハンも兼ねて1ヶ月間滞在し、映画の世界にどっぷりひたりながらインスピレーションを得ました。その後、韓国に戻り、頭に浮かんだストーリーを脚本にまとめました。
―韓国語で書いた脚本を日本語に翻訳し、日本を舞台に、日本の俳優と一緒に撮影されました。文化的な違いを感じたことはありましたか?
リョウスケの撮影に春香が同行し、古い倉庫の中でふたりが昔の思い出に浸ります。そして、高校時代に歌った歌を思い出したリョウスケが、春香を温かく見つめながら歌ってあげるシーンがありました。そのシーンを撮った時、リョウスケ役の眞島秀和さんが恥ずかしそうな雰囲気で少し淡白な様子で演じているのを見て、文化の差かなと思いました。韓国では目を合わせて、愛おしく見つめながら歌を教えてあげたりすることが実際にもよくあるのですが、日本ではそういうことをあまりしないのかな。
また、その後、車に乗り、踏切の警報機の音を聞いた春香は現実に戻り、家に帰ろうとします。しかし、リョウスケはまだ別れたくない。撮影の時点では、駐車場に着いて春香が車から降りようとする時に、リョウスケがぱっと手を握るシーンがありました。しかし、編集の時に見て、「日本の男性はこんな風にいきなり手をつかまないのではないか」と思ったので落としました。
―これまで何度も取り上げてこられた「初恋」をテーマに選んだのはどうしてですか?
まず、私はラブストーリーが好きですし、愛に興味を持っています。人間というのは、自分のことしかわからず、自分自身しか大事にしないものですが、愛を通すことによって、人とコミュニケーションをとることができ、時には自分を犠牲にすることさえできます。家族の愛、男女の愛、いろんな愛がありますが、一番価値があり、興味があるのは初恋。純粋であり、美しいものの極致だと思います。なぜなら、ある日突然やってきて、そのまま受け入れるしかないものだからです。誰にとっても人生に1度しかありません。
今回の映画では「初恋は維持できるか?」ということについて描きました。別の相手に対して初恋の気持ちは維持できないけれど、同じ気持ちを持っていたお互いが相手ならできると思いました。ただ、再会したとき、ふたりは変わってしまっています。絵本作家になりたかった春香は夢を失っているし、リョウスケの方は、自分のロマンがあり、純粋でありたいという気持ちを維持してはきたものの、孤独に生きています。彼はCMなどもたくさん撮ってきたという設定ですが、現実と妥協するのが難しい性格で、人為的なものが嫌になってしまった。そして、人為的なものへの拒否感から偶然が好きになり、自然の中で美しさを追求したいと思いながら作品作りを続けています。私は「この人たちなら純粋な初恋の気持ちを持ち続けることができる」と思い、不倫ではあるけれど一般的な不倫ではなく、大人のための童話のようにこの映画を撮りました。「リアリティがない」と見る人もいるかもしれませんが、初恋からつながる中年の愛を描きたかったのです。
―『心に吹く風』というタイトル通り、風が大きな意味を持っていますね。
男女のラブストーリーにだけにフォーカスしてこの映画を作った訳ではありません。全体的なテーマは自然と人間の対等な関係。あるいは、自然の一部である人間についてです。自然と人間を描きたいと思った時に、最も特徴があるもののひとつが風だと思いました。『心に吹く風』というタイトルは、「心に吹く風も自然現象の一部だといえるのではないか」という思いでつけました。風は、いつ吹くか、どう吹くか誰にもわからない。ランダムで偶然性を持ったものです。人生も同じです。私自身、「冬のソナタ」がヒットするとも思っていませんでしたし、映画を作るとも思っていませんでした。これからどういう風に生きていくかも、誰にもわかりません。
映画の中に、キラキラ光る飾りのついたウィンドチャイムを使ったのも、風が作っている音楽、絵を見てもらいたかったからです。また、古い倉庫の壁面の雨粒の跡も、わざとつけたのではなく、雨を待って撮りました。雨粒によって点や線が予想のつかない形で描かれていきます。予想がつかない自然界、人間の世界、そして、偶然によって起こる、ふたつの世界のつながり、というものを伝えたかったのです。
―偶然に左右される自然をとらえるため、撮影には苦労されたのではないでしょうか。
撮影をする1ヶ月間、俳優がひとつの場所で常にスタンバイしていないといけないと思っていたので、メインの登場人物はふたりと決めて、それぞれのロケ地もあまり離れていない場所に決めました。自然と偶然がテーマの映画なので、人為的な方法を使ってしまっては嘘になりますから。ヘリコプターや送風機を使えば、風を作ることはできますが、イメージに合う風を待ちながら撮りました。瞬発力が大事な現場でした。日本の現場は予定通りに撮るのが大事だということでしたので、スタッフや俳優のみなさんは苦労したと思います。
キャスト&スタッフ
眞島秀和
1976年11月13日生まれ。山形県出身。1999年、李相日監督が手がけた『青~chong~』の主演で俳優デビュー。以後、『血と骨』(04)、『心中エレジー』(05)、『フラガール』(06)、『HERO』(07)、『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』(14)、『くちびるに歌を』(15)、『人生の約束』(16)、『ボクの妻と結婚してください。』(16)、『愚行録」(17)といった数多くの映画のほか、「僕のヤバイ妻」(16)、「未解決事件~ロッキード事件」(16)など、ドラマでも活躍。現代能楽集VII「I 道玄坂綺譚」(15)、M&Opl aysプロデュース「家族の基礎~大道寺家の人々」(16) と、舞台出演も続いている。公開待機作に日韓合作『蝶のように眠る』、日台合作 『おもてなし( 仮) 』がある。
真田麻垂美
1977年8月1日生まれ。神奈川県出身。95年、小栗康平監督の『眠る男』でデビュー。翌年の『月とキャベツ』で山崎まさよしを相手に、ヒロイン・ヒバナ役を演じ、注目される。01年の『忘れられぬ人々』のあと、米国へ留学。2015年に本作のワークショップオーディションで印象的な演技を見せ、春香役に選ばれる。その他の出演作に『しあわせになろうね』(98)、『きみのためにできること』(99)、『ブリスター』(00)、ドラマでは連続TV小説「ひまわり」(96)、「いちばん大切なひと」(97)、「ボーイハント」98)、「オルガンの家で」(99)がある。00年には自作の童話集「天気あめノート」を発表している。
長谷川朝晴
1972年3月19日生まれ。千葉県出身。1993年、明治大学在学中に「ジョビジョバ」を結成。02年12月のライブツアーを最後に活動休止するまで、その一員として多岐に活躍した。個人での出演作に『贖罪』(12)、『カノン』(16)、『お父さんと伊藤さん』(16)などがある。10年の『ヘヴンズストーリー』の演技で第25回高崎映画祭最優秀主演男優賞に輝いている。「真田丸」(16)、「沈まぬ太陽」(16)など、ドラマにも多数出演。
菅原大吉
1960年4月14日生まれ。宮城県出身。演出家・水谷龍二率いる「星屑の会」制作作品や、妻である竹内都子との二人芝居ユニット「夫婦印」を中心に、舞台で活躍。映像作品でも多彩な演技を見せている。主な出演作に『おかあさんの木』(15)、『ラブ&ピース』(15)、『64 ロクヨン 前編/後編(16)、『太陽の蓋』(16)、『相棒̶劇場版IV̶』(17)などがある。『あまちゃん』(13)、『TEAM』(14)、『HEAT』(15)、『おみやさん』(16)など、ドラマ出演も多数。
鈴木仁
1999年7月22日生まれ。東京都出身。第31回メンズノンノモデルオーディションにて“準グランプリ”を獲得。17年から雑誌「メンズノンノ」専属モデルを務める。17年4月スタートTBS金曜ドラマ「リバース」、17年4月にTVドラマ、6月30日から劇場公開される『兄に愛されすぎて困ってます』に出演。
駒井蓮
2000年12月2日生まれ。青森県出身。『セーラー服と機関銃-卒業-』(16)で映画デビュー。その他の出演作にドラマ「キャリア~掟破りの警察署長~」、公開待機作に『名前』がある。
高間賢治
1949年3月10日生まれ。東京都出身。東京都立大学経済学部在学中より若松プロにて撮影助手を始め、CMカメラマンを経て、村野鐵太郎監督の『月山』(78)以降、劇映画カメラマンとして活躍。81~82年には文化庁芸術家在外研修制度により渡米。ハリウッドやニューヨークの撮影現場で撮影監督システムとライティングを学ぶ。主な作品に『白い馬』(95/ポーランド国際映画祭子供審査員撮影賞)、『ラヂオの時間』(97/日本アカデミー賞優秀撮影賞)、『ナビィの恋』(99)、『春との旅』(10/日本映画批評家大賞撮影監督賞)、『マンガ肉と僕』(14)、『惑うAfter the Rain』(16)などがある。
イ・ジス
大学在学中に参加したドラマ「冬のソナタ」(01)の撮影現場でユン・ソクホ監督と出会い、「夏の香り」(03)、「春のワルツ」(06)、「ラブレイン」(12)の音楽を手がける。映画音楽では、『オールド・ボーイ』(03)で大韓民国映画賞音楽賞、『建築学概論』(12)で映画批評家協会賞音楽賞を受賞している。15年には韓国の伝統曲「アリラン」をもとにしたアルバム「アリランコンチェルト」を発表。2018年2月に開幕する平昌オリンピックで音楽監督を務める。
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